2014年12月27日土曜日

空の旅を変えるNFC

photo by Robert Course-Baker, Flickr

「紙」ベースだった航空券と搭乗券

飛行機を乗る際に欠かせないものは航空券と搭乗券。これまで紙ベースで使用されてきたこの二つのチケットは、今、急速に電子化が進んでいます。

つい10数年前までは、航空券といえば紙で「発券」されたもので、国際線ともなると赤いカーボン紙が裏面に付き、経由便や復路など複数の路線の航空券が一つに合冊されていました。

この航空券、全世界の航空会社240社が加盟するIATAが1930年に様式を統一、1972年にはIATA Billing and Settlement Plan (BSP)を導入し、航空券のカバーにはIATAのロゴが印刷される様になります。青いカバーの細長いチケットに翼をシンボライズしたIATAのマークを見た方も多いのではないでしょうか。

チェックインをすると航空券は搭乗券に引き換えられるのですが、こちらは堅めの紙に座席番号が印刷されたもので、国際線の場合、これに航空券をステイプラーで留めたりすることも。どちらも紙のチケットである以上、往々にして失くしたり盗まれたりすることも多かった様です。

2008年にeチケット化

航空各社では早くから予約発券システムが電子化されてきましたが、インターネットが普及した21世紀に入っても、航空券や搭乗券は長らく紙のままでの運用が続いていました。

紙の場合、発券装置が必要なことは勿論、発券カウンターの設置やチケットの郵送など、かなりの手間を必要とします。この効率化を目指し、一部の航空会社では徐々に電子化を進めてきましたが、2008年、ついに航空業界全体で航空券の完全電子化が完了。現在は全て電子チケット(eチケット)に移行しています。そのため、現在皆さんが飛行機を予約した際に手にするのはチケットではなく、このeチケットの「控え」となっています。

次なるチャレンジは搭乗券

搭乗券については、いまだ紙ベースでの運用が主流ですが、こちらにも電子化の波が押し寄せています。日本国内では、早くからANA・JALの両社がeチケット控えに印刷されたり携帯メールで受信したQRコード(二次元バーコード)での搭乗を実現。その後FeliCaを利用したおサイフケータイの登場により、この携帯、ないしは各社がそれぞれFeliCaカードで発行したマイレージ、ないしクレジットカードを搭乗口でタップするだけでも搭乗可能です。

現在のところこの搭乗券の電子化については、対応端末を持っていない方や、データを記録した媒体(携帯端末)の故障やバッテリー切れ等を勘案して紙での発行・運用が並行して続いており、チェックインで預けた手荷物に付けられるタグ(バゲッジ・クレーム・タグ)については依然として紙ベースのままですが、今後、NFCによる電子化が進むものと期待されています。

搭乗券をNFC化することで、(紙による)発行の手間や紛失等の問題を解決出来る他、フライトや座席の変更も簡単。マイレッジカードや、空港や機内販売での支払いに使えるモバイル決済機能との統合も可能となる為、新しい成長戦略の一つとしても有望視されているテーマです。

NFC ForumとIATAによる共同検討

NFC Forumでは、こうした航空サービスにおける各利用シーンでのNFC利用について、リエゾンパートナーとしてNFC Forumに参加されているIATAと共同で検討を行い、2013年にガイドライン「NFC Reference Guide for Air Travel」を発表しました(発表文はこちら)。このガイドラインはNFC ForumのWeb site上で公開されています(ダウンロードはこちら)

世界中で利用されているスマートフォンや各種ウェアラブルへのNFC搭載により、いつでも・どこでもフライトを予約、手荷物のNFCタグにフライト情報をタップして書き込みチェックイン、紙は何も持たずに搭乗するという日は、もうすぐそこまで迫っています。

2014年12月24日水曜日

医療機器とNFC

photo by Konstantin Lazorkin, Flickr


デジタル化する医療器具

ちょっと熱っぽいな?と思った時、体温を測る体温計。昔は水銀を使ったアナログ式で、測る前に振って温度を下げていたものですが、最近はボタン一つでリセットし、測定が終わると音で知らせてディスプレイに体温を表示するデジタル式が主流です。

今や体温計以外にも、血圧計、心電図、体重計など、様々な医療器具がデジタル化され、家庭のみならず様々な医療現場でも広く利用されています。

タップしてデータ転送出来るNFC

ところが、これらデバイスのデータ出力はディスプレイ表示のみ、もしくはプリンターで印字出力されるケースが大半を占めることから、データの読み取り・外部記録に手作業が介在し、誤判読や記入ミスが起きることも。

測定データをデジタルのまま転送・記録出来れば、判読・転写時のミスを防げる他、治療記録に即座に反映出来るためとても効率的です。

こうした体温計や血圧計などの医療器具から測定データを読み取る方法として、NFCを利用する機器が増えつつあります。スマートフォンやタブレット・PCのNFCリーダーに測定器をタップするだけでデータを読み取り、そのままダイレクトに患者さんの診療データに反映することで出来ます。現在、テルモ株式会社の「HRジョイント」シリーズなど様々な製品が実用化され、実際の医療現場で利用されています。

在宅ケアへの広がり

また、高血圧や糖尿病など、生活習慣病の在宅治療の際には、血圧や血糖値の定期的なモニタリングが不可欠ですが、血圧計や血糖値計にNFC対応のスマートフォンをタップするだけでデータり読み取りが出来ると、転記ミスが防げる他、スマートフォンからデータを送信し、医療機関とリアルタイムで最新データを共有することも可能です。

NFCというと、IT機器のペアリングやモバイル決済がよく話題となりますが、この様に医療現場でも活躍が広がりつつあることに注目です。

2014年12月15日月曜日

ワインとNFCの素敵な関係

Photo by Daniel Go (Flickr)

ワインとNFC。一見何の関係もない組み合わせの様ですが、実はこんな応用方法が開発されています。

世界各地で飲まれているワインですが、高級ワインは投機対象となる程高値となることも。そのため、市場にはかなりの偽造ワインが出回り、昨年のさる調査会社の調べでは、高級ワインの約2割は偽ワインとも言われ、深刻な問題となっています。

偽ワインで厄介な問題は、買い手が実際に開栓して中身をチェックすることが出来ない(開けるのは実際に飲む時)という点。そのため、本物のラベルが貼られたボトルを入手して、中身だけを入れ替えるという手口もあり、こうなると外見から真贋を見極めることは極めて困難です。

こうした偽ワインを防止するために、様々な方法が開発されていますが、Selinko社が開発したソリューションは、NFCとスマートフォンを利用した、ちょっとユニークな方法です。

ポイントは、ワインボトルの栓の密封シールにNFCのタグを付け、ここに認証データを記録されている点。この仕組みにより開栓するとタグが破壊されることから、開栓済かどうかの判定が出来る他、タグのデータは複製困難な暗号化されてものであることから、ユーザーはスマートフォンでこのNFCをタップすると、このボトルが真正のものかを認証することが出来ます。

「もの」の情報をデジタル化し、状態変化を記録、それらを自由に読み出し・検証出来るこうした応用方法は、今後誰もが持つスマートデバイスの普及に伴い、急速に拡がってゆくものと期待されています。


2014年11月24日月曜日

上昇を始めたモバイル決済 - Apple Pay導入から一ヶ月 -




先週の木曜日、11/20でApple Payサービス開始から一ヶ月が経過しました。この一ヶ月の結果を見る限り、Apple Payは店舗・ユーザーの双方に受け入れられ、モバイル決済の普及・成長の大きな力となりつつあることがわかります。

この一ヶ月の様子について、ポイントをピックアップしてみました。


サービス開始後72時間で、1ミリオン   


現在までの登録ユーザー数等は公開されていませんが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のカンファレンスでApple CEOのティム・クック氏は、サービス開始後72時間で、全米で百万枚以上のカードがApple Payに登録されたと発表しています。
※冒頭の動画は、その時の対談模様です。

Apple Payは既存のクレジット・カードを利用することを前提にしているため、クレジットカード会社(国際主要ブランド、及び発行会社であるイシュアー)の支持・サポートを得ることが不可欠ですが、しっかりと主要大手を押さえており、これがスムーズな導入を支えています。

9月のWWDCで発表されているとおり、現在のところ3大国際クレジットカード会社であるVISA、Mastercard、American ExpressがApple Payに対応している他、イシュアー(発行会社)としてはAmexを含めた19の銀行カードが対応、航空会社・ホテル・小売店等が発行するco-brandカードについては、7つの銀行カードが対応。
今後、中国その他の地域のカード発行会社との提携も噂されており、そのサポート体制はさらに充実するものと予想されます。

注目すべき点は、各銀行が積極的にApple Pay利用を後押していることです。
例えばChaseでは、Apple Payに自社のカードを登録したユーザーに、iTunesからDavid Guettaの新アルバムをフリーで先行ダウンロード出来るキャンペーンを開始。またWells Fargoでは、Apple Payにカードを登録すると$20もらえる特典を提供しています。

カード発行会社である銀行としては、カードの不正利用対策として、Apple Payの普及を後押ししたい模様です。


42。年末まであと+7


現在のところ、42の全米大手チェーンがApple Payに対応。約22万店舗で使用可能と言われています。今年末までにさらに7つのチェーンが対応予定で、今後確実に増えてゆくと期待されています。

ちなみに各店舗での利用状況ですが、NY Timesの11/14付記事によると、Whole Foodsではこの3週間弱で15万件以上の決済に利用された他、大手薬局チェーンのWalgreensではNFCシステムの利用は2倍に増加、全米に14万店舗を抱えるマクドナルドでのNFC決済の半数はApple Payであったとレポートされていることなど、当初の予想以上に利用されている様子が伺えます。

ユーザーの実際の利用内容に注目すると、Apple Payで支払うユーザーは、よりお金を使う傾向にあるため、店舗側としても収益増のプラスを生み出す決済サービスとして、Apple Payを歓迎している様です。


Apple Payは、モバイル決済の起爆剤に


Apple Payが始まる随分前からモバイル決済は実用化され、近年徐々に利用が増えているものの、スマートフォンによる決済はまだまだ少ないのが実情。調査会社であるガートナーの調べでは、世界でのモバイル決済利用額は2012年に1,631億ドル、2013年には2,354億ドルと成長したものの、北米に限れば2012年に240億ドル、2013年は370億ドルに増加した程度と、市場としてはそう大きなものではありませんでした。

しかしApple Payのサービス開始により、競合相手であるAndroidのGoogle Wallet、米国通信キャリアが運営するSoftcardも着実にダウンロード数を増やし、ユーザー数が増加していることから、Apple Payは米国のモバイル市場全体の活性化に貢献していると言えるでしょう。

調査会社のガートナーの予測では、世界のモバイル決済市場は2017年までに平均年率35%で成長し、2017年には、ユーザー数4億5000万人、市場は7210億ドル規模にまで拡大すると見込まれています。

この一ヶ月の様子を見る限り、Apple Payは、これまでなかなか浮上しなかったモバイル決済の成長に火をつける、大きなきっかけを生み出した言えそうです。

2014年11月9日日曜日

TapとTouch




NFCに代表される非接触ICカードの使い方を説明する際、日本では「タッチ & ゴー」「しっかりとタッチして下さい」など「タッチ」という表現が良く使われます。一方、海外のNFCの場合は「Tap to Pay」とか「Tap & Go」という様に「タップ」という言葉を使うのが一般的です。

ポンと叩く様な動作が「Tap」、触る動作が「Touch」。似ている様で少し違います。特にスマートフォンやタブレットで標準になったタッチスクリーンの場合、インターフェースの仕様上、TapとTouchは明確に使い分けられてるため、TapすべきところをずっとTouchし続けると、ときに全く違う反応(動作)が返ってきて最初はびっくりすることも。

一見些細なことの様にも思えますが、IT機器の操作に不慣れな人にとって、これは大きな問題です。パソコン等のキーボードを使った経験があれば、「画面をタッチして下さい」と言われた時、ずっとタッチするのではなく、キー入力の所謂Typeと同じ様に打ったら離す要領で、触ったら離せば良いということが、恐らくすぐに分かります。

ところがそうした経験が殆ど無い方に、「画面右上の赤いアイコンを “タッチ” して下さい」と指示すると、ずっと指でタッチし続ける人が多いのです。

日本ではタッチスクリーンと呼ばれていますが、実際に要求されてる操作の殆どはTouchではなくTap。ですが、Touchに比べると日本ではあまり馴染みのない言葉のせいか、「タップ」とは言わずいずれも「タッチ」と表現するため、こうした食い違いが発生しがちです。誤操作を防ぐには、タッチという言葉の代わりに「ポンと一回、叩いて下さい」という様に、動詞ではなく文章で正確に説明する必要があります。

NFCの場合、かざす・タップする・ずっとタッチし続ける、どの方法でも通信可能ですが、状況によってはTap & Goでなければ困るケースもあります。例えば駅の改札機。かざし方が不十分だったりタップが早過ぎるとエラーになるため「しっかりタッチ」と注意書きされているのですが、逆にこれが徒になり、長めにぎゅっとタッチし続ける方もいます。そうすると後ろの人がタップ出来ず、列の流れが止まってしまうこともしばしば。エラーにならない様にしっかりタッチさせつつも、不必要に長くタッチさせない工夫が必要です。

ボタンを押す、ハンドルを回す、スイッチを倒すという動作と各動詞は一対一の関係にあり、これら動詞で指示した時、ほぼ誰でも同じ動作をします。これら動作には、いずれも動作に対してボタンが凹む・沈む深さ、ハンドルが回った角度、スイッチ倒れて向きが変わるなどの物理的な反応、いわゆるフィードバックが得られるのが特徴です。このフィードバックがあるおかげで、人により押し具合や倒し具合を間違えてトラブルになるということは殆どありません。

これに対しタッチやタップの場合、その動作に対する物理的なフィードバックはほとんど無い為、どの程度タッチ・タップをすれば良いのか、今のタッチ・タップでOKだったのか直感的には分からない課題を抱えています。そのため、駅の改札機ではプログラミングされた音や光により完了・エラーのフィードバックを返しているのですが、これはあくまで動作後の結果通知。動作前・動作中にどの程度のタッチ・タップであれば良いかを直感的に伝え、動作中に調節出来る様なインターフェースとはなっていません。大丈夫と思って軽くタップして期せずしてエラーになった時、何が(タップの仕方が)どの程度悪かったのか全く判らず、戸惑った方も多いのではないでしょうか。


NFCは今後ますます、スマートフォンや家電、ウェアラブルなどの各種デバイスに搭載され、決済や認証・データ転送など、様々なシーンで「タップ」操作が必要になるでしょう。そうした操作を簡単に・気持ち良く・確実に出来る、最適なユーザー体験(UX)を実現するためには、上に挙げた認知の違いや適切なフィードバックについて、十分に考慮したデザインが求められています。これはNFCを普及させてゆく上で、とても重要な課題です。

2014年10月31日金曜日

イノベーション: NFCの熟成に必要な時間、普及の転機




画期的な新技術が普及し、日常の中で「当たり前」となるまで、一体どのくらいの時間が必要でしょうか。

ラットイヤーという言葉で語られる程猛烈なスピードで進化するITですが、個々の技術を見てみると、実際に生活の中に広く普及するまで、ちょっと意外な程時間がかかることに気づきます。

例えば、WiFiやBluetoothといった無線技術の場合、単独で使われるのではなく、何らかの製品に組込まれて使用されることから、その技術の普及・成長は、対象製品の性能や、関連するサービス(公衆無線LANサービス等)の進化・普及に大きく依存しています。

WiFiやBluetoothといったある要素・技術だけが進化しても、決して使いやすい「当たり前」の製品やサービスにはなりません。それらの力をうまく引き出して活用する周辺機器やサービスといった環境全体が、相互に連携・同期しながら成長することが求められます。この成長に必要な環境が整いサイクルが回り始めるまで、どうしてもある一定の「熟成」の時間が必要です。

WiFiの場合、技術自体は90年代末に開発され(IEEE802.11a/bは1999年に規格化)、当初はノートPC等への搭載・無線LANとしての利用が中心でしたが、2007年に登場したiPhone、2010年のiPadに代表されるスマートフォン・タブレットでの利用で一気に需要が急増、動画コンテンツの利用が増加したことも後押しし、日常的にWiFiという言葉が使われるまで普及しました。ここに至るまで、概ね15年弱の時間を要しています。

Bluetoothも同様で、ver.1.0の仕様書が公開されたのは1999年、ノートPCや携帯電話など、各種小型デバイスへの搭載が少しずつ進み、やはりスマートフォン・タブレットの登場で一気に加速、2014年にBluetooth対応製品の世界での出荷総数は31億台にまで成長しました。面白いことに、WiFiと同じく、最初の実用化から約15年程の時間を要しています。

こうしてみると、新技術のエコシステム形成と熟成には時間を要することと共に、成長の転機となっているのがスマートフォンであることが分かります。さらに踏み込んで見てみると、iPhoneへの搭載・利用開始が、幅広い普及に火を点ける重要なスイッチになっているとも言えそうです。

NFCの国際標準規格NFC IP-1 (ISO/IEC18092)が制定されたのは2003年、NFC Forumが結成されたのは2004年。それから約10年の時間を経てiPhone 6 / 6 PlusへのNFC搭載が始まりました。

現在市場を見渡すと、様々なAV機器・家電製品をはじめ、様々な分野へ着実にNFCの導入が進んでいる他、NFCを用いたモバイル決済も多様化と市場競争が始まっています。WiFiやBluetoothの例から考えると、NFCもいよいよ、爆発的成長のフェーズに入ったといえそうです。

15年サイクルとして考えると、2020年の東京オリンピックでは、きっとNFCは「当たり前」の技術になっている。2014年のNFCを巡る動きをみると、そんな予感が漂っています。

2014年10月19日日曜日

加速するEMV化とNFC化




クレジットカードといえば、支払いの際、店頭の読取り機にさっと通して磁気テープの情報を読み取り(スワイプ)、プリントアウトされた伝票にサインするという形が主流でしたが、最近は、読取り機に挿入し「暗証番号を入力して下さい」と言われることが増えたのではないでしょうか。

これは、従来磁気テープに各種情報を格納していたクレジットカードが、暗号処理を施したICチップにより不正利用や偽造を防ぐICカードに切り替わりつつあるためです。1990年代後半に開発が進められた決済カード用ICカードの規格EMV(Europay, MasterCard, VISA protocol)は、2001年に欧州や日本で導入が始まり、UKやフランスのクレジットカードはほぼ100%EMV化されました。日本でもかなり浸透しつつありますが、店頭にある読み取り・決済端末、いわゆるPOSの対応が追いつかない為、まだスワイプのみという店も多い様です。

世界最大のクレジットカード大国である米国の場合、いち早くEMV化を終えた欧州とは対照的に、実はこれまでその導入が大幅に遅れていました。この背景の一つには、上に挙げた店頭でのPOS対応問題があります。POSをEMV対応とする為には少なからず新たな設備投資(POSの切替)が必要となるのですが、収益増に結びつきにくいことから、銀行系を中心とするカード発行会社(イシュアー)や加盟店ではどうしてもEMV化に消極的となり、導入が遅々として進まなかった訳です。

しかしEMV化の遅れは不正利用の増大を招き、世界のクレジットカード詐欺・不正利用による被害の実に47%が米国で発生し、その被害額は年間で35.6億ドル(約3600億円)にも達しています。この事態を受けて、ついに全米でライアビリティー・シフト(債務責任の移行)が施行されることとなり(※)、EMV化していない店舗で不正利用が発生した場合、その被害の補償責任はカード会社ではなく加盟店側に課せられることとなりました。この期限が2015年10月1日に迫ってきていることから、今全米では、急速にEMV対応のPOSへの切替が進みつつあります。

ここで注目すべき点は、MasterCardやVISAといったメジャー・クレジットカードが積極的に、EMV対応の新POSとして接触型ICカードと非接触型の「NFC」の双方に対応する端末の配備を進めている点です。

これまでEMV対応と同様に、NFC対応のPOS配備もなかなか普及せず、NFCを用いたモバイル決済が利用出来る店が限られているという問題があったのですが、POSのEMV化と同時に、NFC対応も急速に進んでいます。これまでNFC利用のモバイル決済はPOS側での対応がボトルネックとなっていましたが、事態は逆転し、ユーザーが持つ携帯端末、いわゆるスマートフォン側でのNFC決済対応が鍵となりつつある訳です。

この背景から考えると、従来一部のAndroidスマートフォンだけで利用可能であったNFC決済が、このタイミングでiPhoneでも理由可能になったことは、非常に大きい意味合いを持っています。

米国ではいよいよ明日月曜から、iPhone 6+NFCによる「Apple Pay」が始まります。対応店舗がどれだけ増えるのか?と疑問視する声もありますが、クレジットカード業界で現在加速しているEMV化の波にのり、MFC対応POSは一気に進んでいるため、このタイミングでのApple Pay導入は、まさに時宜を得たものといえるでしょう。明日10月20日は、モバイル決済の大衆化を決定的なものとする、まさに歴史的な一日となるかもしれません。


(※) ライアビリティー・シフトは、ガソリンスタンドに関しては適用外となっています。

2014年10月12日日曜日

Suicaの凄さ




関東ではすっかりお馴染みのSuica。私鉄や地下鉄で使われるPasmoをはじめ、いまや全国のバス・鉄道に使われている非接触ICカードは、このSuicaから始まりました。これ一枚あれば、駅で切符を買わなくても、乗継ぎの際に精算をしなくても、昔の磁気カードの様に定期券ホルダーから取り出さなくても、スイスイと電車やバスに乗ることが出来るとても便利なカードです。

毎日何気なく使っているSuicaですが、このカードが実現した性能はある意味驚くべきものです。
まず、日本、とくに首都圏の一日の鉄道乗降客数は世界の中でもダントツの一位。最も多い新宿駅では、JR東日本の乗車数だけで平均75万人/日、私鉄各社を合わせた総乗降客数は1日で360万人にものぼります。このため、定期券や自動改札機の使用環境と、必要とされる性能条件も、世界一厳しいものです。

最も乗降客が集中する朝の通勤ラッシュ時間帯(新宿駅では朝の7時50分から8時50分までの1時間がピーク)でみると、自動改札機を通過する人の数は1分間に60人。つまり、自動改札機は1人1秒以下で改札処理を確実に終えなくてはなりません。従来の磁気カード型の定期や乗車券の場合では、差し込み口に券を挿入し、データを読み取り判定し、機械出口まで運ばれる時間は0.7秒で、この要求条件をクリアしていました。

ところが非接触ICカードの場合「かざす」だけで良いので、人はカードを持ったまま、さっと改札機を通過してしまいます。そのため、カードの検知・認証・読み出し・判定・書き込み・確認といった全ての処理を極めて短時間で完了させなくてはなりません。また同時に、ラッシュ時でも改札で人の流れが止まらない様に、出来る限り低いエラー率も要求されます。これらの条件を満たす為に必要とされた性能は、通信時間0.2秒以内、エラー率0.001% (10万分の1)という非常に厳しいものでした。

この仕様を満たし、駅で誰でも確実に使えるICカードを実現するために、JRの研究開発チームは様々な試作・試験を重ねます(※)。ICカードと読み取り装置の組み合わせだけでなく、同時にSuica発券から精算までを管理する複雑なシステム開発も必要とされ、実際の利用時にトラブルが発生しないために行った試験パターンは22万8千件、運賃検証は実に550万件という膨大なテストが行われました。サービス開始直前にもトラブルが発生したものの、もう一度全ての検証作業を実行し、最後のテストが完了したのは前日の夜8時だったと言われています。

こうして16年にも及ぶ開発を経て生まれたのが、このSuicaです。
2001年11月18日に首都圏424駅で使用が開始され、現在発行枚数は4500万枚以上、全国の様々な交通系ICカードとして利用されています。今やすっかり生活に溶け込んだSuicaですが、改札機やお店でこのカードを"かざす"時、生まれるまでの歴史とその技術をちょっと思い出してみてください。


(※) 皆さんもご存知のとおり、SuicaにはSONYが開発・製造するFeliCaが使用されています。この無線通信部分に用いられている規格はISO/IEC18092、「NFC IP-1」と呼ばれる国際標準規格です。従い、無線部については「NFC」に準拠し共通化されたものといえます。FeliCaの特徴はこのNFCをベースに、ICカードの物理特性、伝送プロトコル、ファイル構造、コマンド等について、JIS X 6319-4と呼ばれる高速処理用ICカード規格を適用し、この上にさらに独自のセキュリティ・ロジックを組込んだ点です。


2014年10月5日日曜日

NFC + 水族館 = 「ikesu」




今年で6回目となるITpro主催のAndroidアプリコンテスト「Android Application Award (“A3”) 2014」(※1)。9月30日に最終選考会・表彰式が行われ、NFC Forumが提供するNFC賞には、株式会社ブリリアントサービス・株式会社ツクロアの「ikesu」(※2)、そして株式会社ドリームオンラインの「SmartPassLock NFC」、以上二つの作品が選ばれました。 

どちらも、NFCを巧みに活用したとてもユニークな製品。今回のブログでは、まず「ikesu」についてのご紹介です。


「ikesu」は、 “水族館xスマートフォン”・“持ち帰れる水族館” をテーマに、水族館を訪れた人がより一層楽しめる様に開発された、いわば、あなただけのバーチャルな水族館を作るアプリです。

来館者の方は、まず自分のスマートフォンに「ikesu」アプリをダウンロード、後は水族館の水槽に設置されたNFCタグにタッチすることで、その魚の情報が「ikesu」に追加され、「ikesu」の中でその魚が泳ぎ始めます。水草や珊瑚などのアイテムが置けるなど、自分だけのアクアリウム作りが楽しめるアプリです。

利用方法は非常にシンプル。入館時に、入口に置かれたポスターのNFCタグをタッチするだけでアプリのインストールが出来る他、水族館内で展示されている色々な魚の中から、気に入った魚を水槽のNFCタグにタッチするだけでコレクション出来るなど、面倒な手順や操作をしなくても、直感的かつ気軽に楽しめるところが最大のポイントです。
まさに、リアルな空間の情報を、さっとデジタル空間に取り込めるNFCならではの特徴を活かしたアプリといえるでしょう。

このアプリケーションの応用範囲はとても広く、美術館や博物館をはじめ、様々な展示会場でも、同様な形での提供が可能です。来訪者の方に簡単に情報を提供するソリューションとして、今後幅広く応用されてゆくことが期待されています。


本作品「ikesu」は、10月8日水曜にホテル日航東京で開催されるNFC Forumの開発者向けイベント「Showcase」でも表彰・展示される他、10月10日金曜に開催されるNFC Forum Conferenceにてプレゼンテーションが行われる予定です。両イベント共に一般参加可能となっておりますので、ぜひ参加お申し込みの上、ご来場ください。(※3)


※1 Android Application Award (“A3”) 2014 受賞作品に関する
    (株)日経BPのプレスリリースはこちら

※2 (株)ブリリアントサービスの「ikesu」の紹介ページはこちら

※3 NFC Forum Showcase 及び Conferenceの概要ページはこちら


2014年9月29日月曜日

NFCと蛇口のデザイン




えっ?、というタイトルですが、今回は使いやすいデザインとは何かについてのお話です。

蛇口、いわゆる水道の水栓ですが、誰でも一日数回は必ず目にして、誰もが使う機械の一つです。自宅は勿論、職場や学校、様々な施設で目にして実際に使っている訳ですが、この機械にはユニークな点が二つあります。

一つ目は、「使用方法について、ほとんど説明はない」こと。ホテルの洗面台などで、凝ったデザインの蛇口に注意書きが添えられているケースもありますが、大半の場合、使い方については何も書かれていません。意味不明な矢印?と思われる三角形や、赤と青のドットがマーキングされていても、それがどういう意味なのか説明されていることは稀です。

二つ目は、「機能は極めてシンプル、なのに蛇口の種類と使用方法は多岐にわたる」こと。蛇口の機能は、水を流す・量を調整する・止めるという基本機能に、オプションとして温水・冷水量の調整がある程度の実にシンプルなもの。ところが、それを実現した機械には単にハンドルを回すものから、レバー式(それも倒したり引いたり様々)、ボタン式、センサーによる自動蛇口など、実に多彩な形状と操作方法のバリエーションがあります。

この二つの特徴が組み合わさると、果たしてどうなるか。
普段とは違う蛇口を前に、使い方が分からずに当てずっぽうで操作して、レバーの力の加減を間違えて思いっ切り水が噴き出す、どこでセンサーが反応するのかわからず、いつまでも水が出て来なくて往生する、どちらに回せば温水と冷水になるのか分からず、間違った方向に回して熱湯にびっくりする...などなど、ただ水を出したいだけなのに、あれこれ試行錯誤したり、トラブルに遭ったりすることもしばしば。
皆さんもこんなハプニング、遭遇したことがあるのではないでしょうか?

この問題はプロダクト・デザインを考える上でとても大切なポイントです。日用品として普段の生活で使われる機械は、美しさも必要ですが、何よりも大切なのは使いやすさこと。その機械の使用方法、つまりインターフェースは、出来るだけ直感的で分かりやすく、自然であることが重要です。一番難しい点は、この重要性は分かっていも、実際にそれをデザインすること、つまり簡単に使える物をデザインすることは、上に取り上げた蛇口の例の様に、一見単純な機能の機械であっても簡単ではないということです。

この問題を解決する為には、機械がもつAffordance (アフォーダンス: その物が持つ機能や行為といった可能性) を正しく・分かりやすく伝える、Signifier (シグニファイア: アフォーダンスを知覚させるサイン) を、利用者の視点で十分考慮する必要があります。

しかし実際の私たちの身の回りには「使いづらい機械」が溢れているのが現状です。その多くは、どう使えばよいのか頭をひねらざるを得ない蛇口の様に、作り手だけが分かるAffordanceとSignifierを基にデザインされたものが少なくありません。


NFCは、かざすだけで簡単に、決済やチケット提示、デバイス間のペアリングなど、色々な情報のやり取りや機能を使うことが出来る便利な技術です。しかし、これを製品・ソリューションとしてデザインした場合、「こうした機能が使える」「“かざす”・ “タッチする”ことで使える」といったAffordanceを示す効果的なSignifierについては、いまだ模索中の段階と言えるでしょう。

全てのものがネットと接続出来るInternet of Things、いわゆる「IoT」の世界で、様々なものとを結び情報伝達を可能にするNFCは重要な役割を果たすと期待されています。その期待を現実のものにするためには、便利なものとして誰もが簡単に利用出来る様、利用者の視点で考えた、Affordanceを踏まえた適切なSignifierのデザインが求められています。



※AffordanceとSignifierについては、以下のD.A.ノーマンの著書に
 詳しく解説されています。興味のある方はぜひお読み下さい。

『複雑さと共に暮らす』(新曜社刊, 2011年)
『誰のためのデザイン』 (新曜社刊, 1990年 初版発行)

Developers Showcase in 東京 (10月8日夜)




NFC Forumでは、2012年に引き続き東京で定期総会を10月6日から9日までの予定で開催致します。この総会イベントの一つとして、10月8日の夜には開発者や関係者との交流の場として「Tap into NFC Developers Showcase」を催す予定です。

本イベントでは、ホテル日航東京・ペガサスの間を会場に、NFCデバイスや利用事例などの製品展示が行われる他、NFCアプリコンテストの表彰式などが予定されています。カジュアルなスタイルで、国内外のNFC Forumメンバーとの交流、各種製品展示展示やカクテルパーティーを是非お楽しみください。


日本語でのイベント概要ページはこちら

参加登録はこちらから

2014年9月24日水曜日

NFC Forum Tokyo Meeting & Events





ついにNFCを搭載したiPhone 6の発売が始まり、そして10月にはモバイル決済「Apple Pay」の開始が迫るなど、今、市場では、NFCの今後の技術進化と各種サービスへの導入の動きに関心が高まっています。

このNFCの標準技術や各種テスト仕様を策定する国際標準規格団体NFC Forumでは、2012年に引き続き、東京で定期総会を開催致します。世界からNFC技術・製品をリードする主要企業の幹部・キーパーソンが一同に会し、NFCに関するトピックスについて議論を行います。今回の東京総会では、9月29日から開催される相互接続確認のテスト・イベント「NFC Forum Plugfest」を皮切りに、3つのイベントも合わせて開催される予定です。

各イベントは、NFC Forumメンバーの方は勿論、NFCに興味のあるノンメンバー・開発者の方も参加可能となっております。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

※イベント概要紹介のWebページ(→リンク先へ移動)もオープンしました。




※ NFC Forumメンバー企業のみ参加可能
概要:年3回開催されるメンバミーティングの一つ。技術仕様他に関する全体討議を実施
日時:2014年10月6日(月)~10月9日(木) 終日
場所:ホテル日航東京
web:http://members.nfc-forum.org/members/tokyo_member_meeting/

   ( 会員のみログイン可能 )




概要:デバイス間の相互接続性を確認するためのテストイベント
日時:2014年9月29日(月)~10月3日(金) 終日
場所:ソニー 本社ビル
web:http://nfc-forum.org/events/tokyo-plugfest/




概要:NFCの各種デモを含めた交流イベント、NFCアプリケーションコンテストの授賞式あり
日時:2014年10月8日(水)18:00 ~ 20:00
場所:ホテル日航東京 ペガサスの間
web:http://nfc-forum.org/events/tap-into-nfc-developer-showcase/




概要:NFC Forum主催のカンファレンスイベント
日時:2014年10月10日(金)9:00 ~ 15:30
 (※9:00-11:00 : モバイルウォレット体験ツアー)
場所:ホテル日航東京 アポロンの間

web : http://nfc-forum.org/events/nfcforumtokyoconf/

2014年9月10日水曜日

NFCで出来ること (その4) : HCEとは


「NFCとは何?」「NFCに対応載すると何が出来るの?」のポイント解説、その4。
前回のその3では、NFCを「おサイフケータイ」として使用するための課題について触れました。今回はその実装上の課題を解決する「Host Card Emulation (HCE)」について解説します。


モバイル決済をより柔軟に実現するHCE


その3で解説した様に、これまでNFCによりモバイル決済をサポートするためには、セキュリティ周りを中心とする実装上の課題を専用のハードウェアにより解決する必要がありました。特に、重要なデータを安全に保存するセキュリティ部分(Secure Element: SE)は、 データ保護・改竄防止を確実にするため、殆どのデバイスで専用チップ内にハードウェアの形で実装されています。このSEを前提とするセキュリティ実装は、市場でNFC対応デバイスが普及しているにもかかわらず、NFCを利用したモバイル決済サービスがなかなか広がらない要因の一つにあげられます。

(※) 余談ですが、iPhone 6にはNFCコントローラーとしてNXP社のPN65チップが搭載されていると推測されています。PN65では、SEはチップ内に設けられています。


NFC対応デバイスで、もっと簡単かつ柔軟にモバイル決済機能を実装し、幅広く利用出来る様にしたい。
この願いを実現したのがHost Card Emulation (HCE)です。


HCEの最大の特徴は、実装上のボトルネックであったセキュリティ部分(SE)を仮想化することで、専用チップではなくデバイス上のアプリケーションCPUでセキュリティ性の高い処理の実行を可能としています。この方式が優れている点は、この仮想化の利点を活かし、デバイス上のCPUではなくネットワークで結ばれたホスト側、すなわちクラウド上にこの処理を実装することも可能となる点です。

モバイル決済をサポートする場合の実装上の課題を、HCEによりソフトウェアで柔軟に解決出来る様になったことは、NFCベースのモバイル決済の普及に向けた大きなブレイクスルーといえます。一般のスマートフォンで簡単にモバイル決済が利用出来る様になる他、店頭で必要とされたモバイル決済対応の専用POS端末(Reader/Writer)にスマートフォンを利用することが可能となるなど、今後急速にHCE利用のプラットフォームが広がることは確実です。

既にGoogleはAndroid 4.4 (KitKat)でこのHCEをサポートしている他、クレジットカード会社大手のVISAとMasterCardも支持を表明し、これを受けて世界各国で導入の動きが加速しています。スペイン第2位の銀行BBVAやロシア最大の銀行SBERBANKで導入を予定している他、欧州プリペイドサービス第1位であるPrePay Solutionsでも、ポイント付与などのマーケティング機能を設けたモバイル決済をHCEを利用して導入予定です。


NFC ForumではHCEに関しGoogleと協業してゆく旨を表明している他、SONYも、HCEによりFeliCaチップなしでもFeliCaのモバイル決済サービス利用を可能とする「HCE-F」を発表するなど、NFC+HCEそしてスマートフォンの組み合わせにより、モバイル決済は世界中で一気に普及する勢いを見せています。

(その5に続く)


iPhone 6 / Apple Watch + NFC で実現するApple Pay



今回は、米国時間9月9日にAppleが発表した、NFCを用いたモバイル決済サービス「Apple Pay」について触れたいと思います(※)。

(※) 以下解説は、9日のAppleの発表内容を基に、周辺状況を総合して全体像を「推測」したものである為、未確認内容を含みます。詳細仕様が確認され次第、更新致します。


iPhone 6とApple Watchで利用可能な「Apple Pay」


直前の予想どおり、AppleはiPhone6とウェアラブルのApple WatchにNFCを搭載し、タッチするだけで支払いが完了するモバイル決済サービスを発表しました。

「VISA、MasterCardそしてAMEXのクレジットカード3社と合意・提携」「クレジットカード番号をトークン化して認証する方式」と発表にあったところから考えて、Apple Payは3社が導入を進めるトークン処理(※1)のスキームを利用すると推察されます。

これらクレジットカード3社では、既にNFCベースのモバイル決済の対応を開始済みで、加盟店店頭にはNFC対応のPOS端末(Reader/Writer)の設置が進んでいます。これら既存のReader/Writerを(ハードウェアとしては)変えることなくApple Pay対応を行うと考えられるため、iPhone 6及びApple Watchに搭載されたNFCはType-A/B方式のものと思われます。直接Appleから発表はありませんが、状況から推測すると、FeliCa対応は見送られた模様です。

(※1) トークン処理の導入については、昨年10月1日に3社共同で共同発表しています。この水面下では、Appleとの交渉が並行して進められていたと思われます。尚、今回の発表を受けて、VISAとMasterCardは、それぞれApple Pay対応について同じ9日にプレスリリースを行っています。


クレジットカード3社のNFC利用によるモバイル決済は、既にNFC対応のAndroidデバイス向けに着々と導入が進められていることから、今回のApple Payの開始により、このスキームが世界共通のデファクトとなる形で、今年末から来年にかけて一気に市場に浸透する可能性が高そうです。

2014年9月9日火曜日

NFCで出来ること (その3)

「NFCとは何?」「NFCに対応載すると何が出来るの?」のポイント解説、その3。
今回はその2で紹介した3つの動作モードのうちCard Emulationについてのお話です。NFCを「おサイフケータイ」として使用するための課題について解説します。


NFC = 「おサイフケータイ」ではない理由


FeliCaにより実現した「おサイフケータイ」
日本では早くから、SONYが開発した非接触ICカード技術「FeliCa」を利用した決済サービスが導入され、2004年にはNTTドコモのi-mode携帯電話506iC・900iCシリーズにより「おサイフケータイ」が実現しました。サービス開始から今年で10年を迎え、いち早くスマートフォン上でも対応するなど、日本はモバイル決済分野で最先端を走る市場となっています。

セキュリティを中心に異なる実装
決済サービスを行う場合、認証や電子マネーに関する情報等をやり取りする為、データ保護のためのセキュリティ確保(暗号化・安全な保存)が必須です。この領域についてNFCでは各社の実装に委ねている為、市場では複数の方式が実用化されています。

FeliCaとMIFARE
FeliCaの場合、必要となるセキュリティ機能や運用性能を確保するための専用OS、ミドルウェア、アプリケーションの専用仕様を定めている他、NXP(旧フィリップス)が開発した非接触ICカード技術「MIFARE」では、Type-A (ISO/IEC14443 Type-A) と呼ばれる伝送規格の上に、FeliCa同様、独自のOSを規定しています。

この仕様・規格関係を整理すると図1の様に表せます。

図 - 1


図から分かるとおり、無線伝送部分についてはFeliCaとMIFAREは共通化されています(NFCIP-1, ISO/IEC18092)。また NFCIP-2 (ISO/IEC21481) は、自動車運転免許証にも使用されているType-B (ISO/IEC14443 Type-B) を含める仕様となっています。この様に非接触通信の伝送部分は「NFCとして共通化されている」と言ってよいでしょう。

ただ、図で示されている様に、サービス実装部分では異なるのが実状です。前回のその2で紹介した、モバイル決済等で使用するカードとして動作するためのCard Emulation(CE)モードは、こうしたセキュリティ実装と一体化されているため共通規格化が難しく、これまでCEのAPIは非公開とされ、実装差分の要因の一つとなっていました。


セキュリティ部分の実装にはハードウェアによる対応が必要(..でした..)
例えば、FeliCaを利用してモバイル決済をサポートする為には、FeliCaが規定する全ての実装仕様を満たす必要があります。特に秘匿性が要求されるデータはセキュリティ・エレメント(SE)と呼ばれる領域に保存されなくてはならないのですが、FeliCaではSEをFeliCaチップ内に設けているため、端末にはこのチップの実装が不可欠です。このため、NFC対応スマートフォンであっても、FeliCaチップを搭載していない機種については、「おサイフケータイ」は利用出来ません。同様にNFC対応を謳っていても、MIFAREのセキュリティ実装がされていない機種では、MIFAREによるモバイル決済を利用出来ません。
これが、NFC = 「おサイフケータイ」ではない理由です。

NFCによるモバイル決済を実現するためには、このハードウェア実装の課題を解決する必要があります。


(その4に続く)

NFCで出来ること (その2)

「NFCとは何?」「NFCに対応載すると何が出来るの?」のポイント解説、その2。
今回はNFCの仕組みと、その動作モードについてのお話です。


NFCは電磁誘導で動作する


無線で通信する場合、送信機から電波を発射し、この電波を受信機で受信して元の信号に戻します。送信・受信双方で電力が必要なのですが、クレジットカードの様なカードや小さなNFCシール(タグ)に無線通信用の電池を付けることはあまり現実的ではありません。

NFCではこの電力を誘導磁界を用いて、カードのReader/Writer(読み取り・書き込み装置)から発射される電波により供給しています。ファラデーが発見した、コイルの中の磁界が変化するとコイルに電流が流れる電磁誘導の現象を利用しており、Reader/Writerから発射された電波により、カード内に巻かれたコイル状のアンテナの磁界を変化させて電流を発生させる仕組みです。これにより、電池を持たないICカードでも無線によりReader/Writerと通信することが可能となっています。

NFCを使用する場合、この電磁誘導により必要な電力を得るため、コイルとなる様に導線を巻きます。例えばSuicaの様なカードの場合、カードの淵に沿う形で内部にコイルが巻かれています。アンテナを構成するこのコイルの大きさや他の干渉波により伝送性能が左右されることから、携帯電話やスマートフォンといった小型デバイスに搭載する場合、その実装位置を慎重にデザインしなくてはなりません。


NFCの三つのモード


NFCでは以下の三つのモードが規定されています。

※NFC Forumでは、3.のCard Emulationについて実装を必須としていません(オプション)。このため、NFC対応を謳うスマートフォンでも、モバイル決済に対応している機種とそうでない機種に分かれます。この課題と解決方法については、その3以降で解説します。

1. Reader/Writerモード
NFCのデータを読み取り・書き込みを行うモードです。
例えばポスターに貼られたURLを書き込んだNFCタグに、NFC対応のスマートフォンをかざしてこのモードで読み取ることで、そのURLにジャンプしてホームページを見たりすることが出来ます。

2. Peer-to-Peerモード
NFC機器間同士でデータを交換するモードです。
例えばNFC対応のスマートフォンを、同じくNFC対応したプリンターやスピーカーといった機器にかざすだけで、BluetoothやWiFiによるペアリング設定が出来ます。

3. Card Emulationモード
NFC機器が非接触ICカードの様に振る舞うモードです。
例えばJR東日本のモバイルSuicaの場合、携帯電話やスマートフォンがこのモードに対応してFeliCaに必要なエレメントとアプリを実装していれば、それらデバイスをSuicaカードとして使用することが出来ます。


(その3に続く)

2014年9月8日月曜日

NFCで出来ること (その1)


9月9日のAppleのイベントが迫る中、予想される発表内容について世界中で報道が過熱しつつあります。iPhone6をはじめ、以前から噂されているiWatchの様なウェアラブルが登場し、NFCに対応するのでは?という予想が飛び交っていますが、「NFCとは何?」「NFCに対応載すると何が出来るの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで改めて、NFCのポイントについて二回に分けて説明したいと思います。


NFCとは


一言で言うと、無線による通信技術の一つです。非常に弱い電波を利用し、10cm以下(通常数cm程度)のとても短い距離で通信を行います。NFCはNear Field Communicationの略語であり、言葉の通り近接した場で使用される通信方式の国際規格の名称です。物理的に接続・接触しなくても、「かざす」だけで簡単に通信出来ることが最大の特徴で、このため非接触通信とも呼ばれています。

非接触通信はここ10年余りで世界中に普及し、様々な場面で利用される様になりました。最も一般的な例は交通系カードへの応用。駅やバスといった交通機関を利用する時、コンビニエンス・ストアや自動販売機で買い物をする時、カードをかざして利用したことがあると思いますが、ここで用いられているのが非接触通信です。

周波数13.56MHzを用いた非接触通信方式に関して標準規格としてまとめられたものが、NFC規格となります。国際規格ISO/IEC18092 (NFCIP-1)を中心に、関連企業185社以上が加盟するNFC Forumにて各種関連規格が制定されています。


FeliCaとNFCの関係


かざすだけで使える非接触ICカードとして、日本ではSuicaやICOCAなどの交通系カードや、nanacoやWAON等の流通系カードが幅広く利用されています。おそらく皆さんも、どれか一枚はお持ちではないでしょうか。この非接触ICカードにはSONYが開発した「FeliCaカード」が利用されていますが、この無線通信技術はNFCと共通です。

ただ、NFCとFeliCaは確かに同じ無線通信技術を使用しているものの、NFC対応の機械でFeliCaカードがそのまま使える訳ではありません。これはNFCが基本的な無線通信部分までを規定しているのに対し、FeliCaは通信上でやり取りされるデータの暗号化や処理ロジックといったカードOSの部分までを規定している違いにあります。

NFC対応デバイスでFeliCaカードと通信を行うこと(データ送受)は可能ですが、定期券の認証や電子マネーの出し入れといったFeliCaカードのサービスを利用するためには、FeliCaで規定するセキュリティ機能の実装が必要です。

このセキュリティ機能の実装方法については、FeliCa以外の主なものとしてNXP社(旧フィリップス社)が開発したMifareがあり通称Type-A (国際規格 ISO14443 A) と呼ばれている他、セキュリティ部分は独自実装を可能としているType-B (国際規格 ISO14443 A) があります。

ポイントは、この三つの方式のいずれも基本的な通信方式はNFCとして共通化されていること、セキュリティやサービス等に用いるデータの処理ロジック・対応アプリ等に違いがあるという点です。


NFCの技術的な性能


NFCが使用可能な通信距離は、先に述べたとおり10cm以下の非常に短い距離ですが、無線接続であるため、赤外線通信とは異なりポケットや鞄の中にあっても通信が可能です。お財布にカードを入れたまま、改札機や読み取り機にかざして利用している方は多いのではないでしょうか。

通信速度は106 / 212 / 424 / 848kbps のいずれかを選択可能ですが、FeliCaでは通常212kbpsが使用されています。

ICカードのメモリーサイズは様々ですが、FeliCaカードの場合数Kバイト、一般的なNFCチップでは数百バイトのものが市販されています。

(その2に続く)



2014年8月24日日曜日

いざという時の大切な記録




突然の災害で避難を余儀なくされた時、いつも服用している薬を持ってゆく余裕が無い時もあります。かかりつけの病院や薬局までも被害に遭う様な大災害でカルテなどが失われた場合、もはや自分自身の診療記録や投薬情報を確認する術もなくなります。自然災害の多い日本では、過去この様な事態が幾度となく発生しています。

避難所ではストレスにより体調を崩す方、慢性疾患が悪化する方など多数の患者が発生し、救援隊の医師のもとに殺到します。「現在服用されている薬はありますか?」と尋ねる医師に、例えば高血圧の薬を飲んでいますと答えても、高血圧の薬には色々な種類がある為、医師は必ず「そのお薬の名前、分かりますか?」と改めて尋ねざるを得ません。




服用薬の名前を全て覚えていれば幸運なのですが、高齢者の方の場合、幾つもの薬を服用していたり途中で投薬が変更されていたりして、全部の薬の名前を思い出せない方が多いのです。実際、東日本大震災の際に避難所で診察にあたった医師は、こうした事態に直面し、投薬の判断に大変苦労されたことが報告されています。

この時、混乱する現場で大変役に立ったのが「おくすり手帳」。糖尿病や高血圧などの慢性疾患の履歴や服薬状況を確認することが出来た為、手帳を持参された方の診察・投薬はとてもスムーズに行えたこと、逆に手帳を持っていなかった方の場合、確認のための検査もままならず、薬の種類や投薬量の決定が困難であったことが、震災後の日本薬剤師会の報告書でまとめられています。
非常時にとても役立つ「おくすり手帳」ですが、常に携帯している方は多いとは言い難く、普段の診察の際にも家に忘れてしまう方のほうが多いのが実態です。いざという時に備え、常時簡単に携帯出来ないか。また、細かい日々の服薬状況などを簡単に記録出来ないか。この課題は、最近では「おくすり手帳」をNFCを活用したアプリで電子化することで解決されつつあります。

NFC対応されたスマートフォンであれば、この電子「おくすり手帳」のアプリをインストールしておくことで、薬局でタッチするだけで処方薬の情報が記録出来ます。かさばる紙の手帳を持ち歩いたり、記帳してもらう手間がありません。また自宅でも、日々の服薬状況をアプリ上で簡単に記録することが出来ます。なによりも、常時携帯するスマートフォンに「おくすり手帳」が入っているため、いざという時、震災時の様な時にでも、本人や医療関係者がすぐに記録を確認することが可能です。クラウド側でバックアップすれば、仮にスマートフォンを壊したり失くした場合でも、また薬局が被害に遭った場合でも、診療記録や服薬情報を調べることも出来ます。

現在、大阪府薬剤師会の「大阪e-お薬手帳」をはじめとして、日本各地で導入が進みつつある電子版おくすり手帳。いざという時の大切な情報を記録し伝える技術として、NFCが貢献しているソリューションの一つです。

2014年8月17日日曜日

「助けて欲しいこと」を機械に伝える


Photo by Frederick Dennstedt, Jan 28, 2008. (CC)


つい数年前までは、誰もが携帯電話のボタンを押していたのが、今ではスマートフォンの画面とにらめっこ。タッチスクリーンを指で触る姿が街の風景となってきました。ATMは勿論、駅の券売機、各種自動販売機からレストランのメニューまで、至る所でタッチスクリーンのインターフェースが浸透しつつあります。

こうした機械の進化は、機能性が向上して便利になったかの様に見えるのですが、同時に思わぬ問題も生み出しています。たとえば表示される文字の大きさは固定されている為、老眼や弱視の方にとっては見えづらい。大きくしたくても、その調節ボタンの表示がどこにあるのか分からない。全く目が見えない方には音声によるガイダンスが必要なのですが、そのリクエストをどうやって伝えれば良いかが分かりません。

障害を持たれた方ばかりでなく、海外から来日した人で英語も日本語も良く分からない方の場合、例えば食券販売機の前でさっぱり読めない操作画面を前に、どうすれば良いのか分からず立ち往生されるケースもしばしば。日本に住む私たちも非英語圏に旅行した際、駅やバスの切符販売機などで同じ様な経験をされたことがあるのではないでしょうか。



その昔、機械ではなく人が応対にあたっていた時代であれば、筆談や身振り手振りなど、様々な方法でコミュニケーションをとり、自分のリクエストを相手に理解してもらうことが出来ました。しかし、現代のこうした機械の多くには、こうした「困っていること」「助けて欲しいこと」を受け取るインターフェースが備わっていません。IoTの言葉通り、今後ますます自動化・機械化が進む中で、これは大きな問題です。

こうした操作する人の「困っていること」「助けて欲しいこと」を機械に簡単に伝えられれば、機械は相手の条件に応じて最適なインターフェースに切り替えることが出来ます。しかし、機械毎、ATMや自動販売機毎にこの伝え方がバラバラであれば、操作する人は一々個々のやり方を理解しておく必要があり、結局問題の解決にはなりません。世界中の全ての機械で、同じ方法により簡単に使えることが必要です。


「支援リクエスト」と呼ばれるこの課題をどの様に解決するか。
実は日本では、政府と企業が協力してICカードを用いた標準方式を開発し、これを国際標準化委員会へ提案、2011年に国際規格ISO/IEC12905としてとして制定することに成功しています。ICカードにより、誰でも簡単に機械へリクエストを伝えられるとても便利な規格です。

この方式は、予めICカードに必要な支援リクエスト情報を記録しておき、機械がそのカードを読み取ることで、個別操作なしで支援内容を機械に伝え、機械は最適なインターフェースに切り替える等の必要な支援機能の提供を可能にするものです。
(支援リクエストと国際規格の概要の説明書はこちらからダウンロード出来ます)

例えば、英語圏で弱視の方がその情報をICカードに登録しておくと、券売機でそのICカードを機械に読み取ってもらうだけで、券売機の画面を英語で弱視の方用の表示に切り替える...という具合です。

このISO/IEC12905は、従来のクレジットカード(ID-1)の様なカード型は勿論、携帯電話のSIM/UIMカードや、NFCでも適用可能となっているところが大きなポイントです。つまり、NFC対応スマートフォンであれば、自分が持っているスマートフォンを「支援リクエスト・カード」として使うことが出来ます。これに様々なアプリを組み合わせれば、例えば難聴気味の方にはスマートフォンのアプリを介し、機械にスマートフォンをかざすだけで、操作者のイヤホンに必要な音声ガイダンスを流すといったことも可能です。



これからますます機械化・IT化が進む社会では、人と機械がよりスムーズで柔軟にコミュニケーションをとれることが重要です。この問題解決のために、普及するスマートフォンとNFCを活用したISO/IEC12905の導入と応用が強く期待されています。


来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、世界中から沢山の方が日本を訪れます。このISO/IEC12905とNFC、そしてスマートフォンの組み合わせにより、誰もがどこでも快適に旅行が出来れば、それこそ日本が創る最高の「おもてなし」になるのではないでしょうか。


2014年8月10日日曜日

着想を広げるハッカソン




“Hack”と“Marathon”の二つの言葉から作られた “ハッカソン (Hackathon)”。

IT開発者の間ではすっかりお馴染みの、文字通り長時間連続してソフトウェア開発にチャレンジするイベントです。こう書くと、プログラマーだけが参加出来るイベントに思われがちですが、多くのイベントでは、そのテーマに興味・関心さえあれば、プログラマー以外の方の参加を歓迎しています。

NFC Forumも協賛するアンドロイド・アプリ・コンテストAndroid Application Award (A3) 2014でも、ウェアラブル・デバイスの訴求と、活用アイデアの探求を目的とした「Xperia Wearable Hackathon」を、去る8月2日・3日の二日間、金沢にあるインキュベーション拠点GEUDAで開催。のべ20人以上の参加者の方々が、古い洋館をリノベーションしたGEUDAの素敵な空間でアイデア創りとアプリ開発にチャレンジされました。



こうしたハッカソンに参加して感じることは、一つの空間に開発者が集合しアイデアを練ると、それまで思いつかなかった様な発想が膨らんだり、思わぬ解決方法を閃いたりすることです。

どうしても一人だけで考え続けていると、視点が固定されてしまったり視野が狭くなり、発想から柔軟性が無くなってしまうことが多々あります。また、前例のない問題の解決方法や、未知の技術の活用方法など、単純に積み上げベースで思考しても解答が得られない様なテーマは、いくら一人で考えても堂々巡りになりがちです。

ところが、同じテーマについて考える人同士が一箇所に集まると、自分とは異なる視点やアイデアに触れ、互いの考え交差させたり組み合わせたりすることが出来ます。そうした自分の着想の枠を超える創造を体験することで、発想の幅が何倍にも広がり、驚く様なアイデアが生まれるのです。





今回のハッカソンでも驚く様なアイデアが次々と飛出し、会場は大いに盛り上がりました。それに刺激されて他のアイデアも進化、短期間で実に面白いアプリが開発され、改めて発想の幅を広げるハッカソンの力を体感することが出来たイベントでした。
(今回のハッカソンで開発されたアプリ作品はA3 2014へ応募登録されていますので、ぜひ9月末の表彰式をお楽しみに!)


ウェアラブル・デバイスやNFC活用をテーマに掲げるA3 2014では、この金沢でのハッカソンに引き続き、8月23日に福井県鯖江市で「禅ハッカソン in 鯖江」(Code for Sabaeとの共催)を開催する他、8月25日(月曜)夜には、ウェアラブル・デバイスをテーマとしてアイデア創りにチャレンジする「Wearable Devices Night in Sapporo powered by Xperia」を札幌市で開催します。

禅ハッカソン in 鯖江
Wearable Devices Night in Sapporo powered by Xperia 


ぜひこの夏、皆さんもこのハッカソン・アイデアソンに参加して、自分のアイデアをぐんと広げる体験をしてみませんか? NFC Forumでは、この体験からウェアラブル・デバイス、そしてNFCの未来を創るアプリやアイデアが生まれることを期待しています!

2014年8月3日日曜日

そこにあるイノベーション




「すべてを記憶する」
この言葉は、スキャンしたデータや写真、ファイル、クリップしたWEBページなど、あらゆる情報を記録・保存するクラウド・サービス「Evernote」が掲げるモットーです。今や全世界で1億人以上が利用しているEvernote。例年、このEvernoteを利用したアプリを競うコンテストが開催されていますが、2011年のコンテストEvernote Developer Competitionでは、NFCとEvernoteを組み合わせたアプリ「Touchanote」が見事グランプリを獲得しました。
今回のブログ、世界を変えるイノベーションの見つけ方についてのお話です。


色々なモノ、例えばWiFiルーターの様な機器はIPアドレスその他の細かい設定が必要ですが、そうした情報の記録をとり忘れて、いざ変更しようとした時に困ってしまうケースがままあります。これを解決するのが冒頭に紹介したTouchanote。一言でいうと「ワンタッチでモノの情報を呼び出せる」アプリです。

機器の細かい設定情報はEvernoteに保存し、その保存先リンクをNFCタグに書き込んで機器に貼付けておきます。こうすると、その情報が必要な時に検索などをしなくても、機器に貼られたNFCタグをスマートフォンでタッチすれば、Evernoteに保存しておいた設定情報を瞬時に呼び出せるところがこのアプリの特徴です。

Touchanoteの開発者であるHamid Zaidi氏(右)とCyril Chaib氏
(2011年のMA7コンテスト表彰式にて)

Touchanoteがユニークな点は、ネット上で使われているEvernoteのサービスを、リアルなモノにまでNFCを使って拡張したこと、日頃よくある困っていた問題を見事に解決した点にあります。これはイノベーションの創造にあたってとても重要なポイントです。


Evernoteの創業者・CEOであるフィル・リービン氏は、昨年開催したコンテスト「Evernote Devcup 2013」のキックオフイベントの際にこう語っています。

“「サービスのアイデアが思いつかない」という人は、今日から1週間、自分が日常生活の中で何をどうしているか、つぶさに観察してみてほしい。家族や友人、職場の同僚がどうしているかも注意深く見つめてほしい。

その中には、いつもやっているけど好んでやっているものではないこと、素晴らしい体験とは呼べないことが必ずある。それを見つけ出して変えるんだ。”
(エンジニアtype 2013/4/18公開のWEB記事より)


NFCは、かざしてタッチするだけで情報を伝え、いろいろなモノをつなげることが出来る便利な技術です。この技術を活かす鍵は、Touchanoteのケースやフィル氏の言葉のとおり、私たちの何気ない日常の中にあります。いつもやっているけれどちょっと不便・面倒だなと感じていることを見つけ、何が問題なのかを分析し、より良い体験を作り出す方法を考える。
世界を変えるイノベーション。その未来への鍵は、私たちの目の前に広がっています。


2014年7月27日日曜日

NFC、ウェアラブル、IoT、そしてビッグデータ




クラウドやスマートフォンにより、社会を変える大きな革新の波を生み出した現代のIT。この次に来る波として、市場では次の三つに注目が集まっています。一つはウェアラブル・デバイス。二つ目は全てのものがネットに接続されるInternet of Things (IoT)。そして三つ目はそれらが生み出すビッグデータです。

この三つの動きには共通点があります。それはリアル、いわゆる実際の物理空間の情報がメインターゲットになっていることと、その情報交換の柱としてワイヤレス通信技術が駆使されている点です。

今回は、これからのイノベーションの鍵を握る3つの要素: ウェアラブル、IoT、ビッグデータと、それらとNFCとが結びつくイノベーションについて触れてみたいと思います。


ウェアラブル、IoTそしてビッグデータの三つは、いずれも概念自体は以前からあり、これまでも様々な試みが行われていました。ここにきて急速に発達し実用化が進んだ背景には、様々なデバイス技術の進化もさることながら、ワイヤレス通信技術の進化が大きく貢献しています。

20世紀初頭、モールス伝送に始まったワイヤレス通信は、僅か100年余りで高度な進化を遂げました。マクロなレベルでは、3Gに始まり今やLTEで数百Mbpsのワイヤレス・ブロードバンド接続を可能にした携帯電話通信や無線LAN通信(Wi-Fi)が、ミクロなレベルでは、数十m程度の距離を結ぶBluetoothから数センチの間を繋ぐNFCまで、様々なワイヤレス通信技術が実用化され、世界中誰でも自由かつ簡単に使える環境が整備されつつあります。

これらのワイヤレス通信技術の最大の特徴は、従来の固定されていた通信回線や接続ケーブルに縛られることなく、いつでも・どこでも・何とでも、自在に接続して情報を交換することを可能にしたことです。これは実に画期的なイノベーションであると言えます。なぜなら、もしこのワイヤレス通信がなかったとすると、情報処理デバイスは全てケーブル、つまり物理的な線で結ばれる必要があり、電車や街中でスマートフォンを見たり、ウェアラブルでARを操作したり体の情報を計測するといったことは不可能だったからです。

今、このワイヤレス通信は、これまでの人と人とのコミュニケーションから、あらゆる「モノ」とのコミュニケーションへと拡がろうとしています。ここでNFCが果たす役割は非常に大きなものです。例えば、荷札やチケットなどこれまで紙に印刷されていた情報を、今ではNFCにより瞬時にデジタル・データとして読み取ったり書き込んだりすることが簡単に実現出来ます。人を介して入出力されていた物理空間の様々なデータが、これからはダイレクトにデジタルの形で、モノからモノ、機械から機械へと伝えることが可能になる訳です。

このことにより、眼鏡やインカム、スマート・ウォッチといった様々なウェアラブルが相互接続しリアルタイムでデータを交換出来ることはもとより、周囲の様々なモノや機械とも情報交換が可能となります。さらに、それらデータを常時ネット上で集計しリアルタイムで分析することで、ウェアラブル + IoT + ビッグデータを結ぶシステムが実現し、瞬時に最適化されたソリューションを手にすることが出来るでしょう。

こうして考えてみると、NFCはとても小さなタグ、非常に短い、数センチの距離を結ぶワイアレス通信技術ですが、次世代のITの核となるウェアラブル、IoT、そしてビッグデータと融合することにより、巨大なイノベーションへと成長する可能性を秘めた大きな存在です。

2014年7月18日金曜日

金沢で創るNFCの未来








NFC Forumも協賛社として参加・支援中の、ITpro主催Androidアプリコンテスト「Android Application Award」、通称A3(エーキューブ)。今回のブログではA3の開発イベントと、8月に金沢で開催予定のNFC関連のハッカソン「Xperia Wearable Hackathon」ご紹介します。


数多くあるAndroidアプリコンテストの中でも、今年で6回目を数えるA3には毎回多くの作品応募があり、幾つものユニークなアプリが生まれました。なかでもNFCを活用した応募作品は2010-2011年の大会から登場する程、NFCとつながりが深いコンテストです。

全国の開発者にコンテスト参加を呼びかけ、開発の機会となるアイデアソン及びハッカソンを各地で開催していることも、もう一つのA3の特徴です。

昨年の第5回となるA3 2013では、NFC活用の新しいアイデア創出を支援すべく、2013年3月に金沢市の後援を得てアイデアソンを開催、「Net x Real “際” を超える」をテーマに参加者全員でNFCを活用する未来のソリューションについて、グループワークを通じてユニークなアイデアの創発にチャレンジしています。

アイデアソン等のグループワークによりアイデアの創造にチャレンジする時、参加者のイマジネーションを刺激し創発を促す「場」の選択や構成は重要なポイントです。昨年3月に開催された金沢のハッカソンでは、金沢市の協力によりアーティストの皆さんが通う金沢美術工芸大学のキャンパスが会場に選ばれ、普段のオフィスや会議室とは違う雰囲気に刺激を受けながら、参加者の皆さんのグループ・ディスカッションは大いに盛り上がりました。






それにしても、なぜ金沢なのでしょうか。
実は、加賀百万石の城下町として栄えた金沢は、深い歴史と工芸が盛んな観光地という顔の他に、ITを軸とするイノベーションへ果敢に挑戦する街という顔を持っています。






例えば金沢市は、IT・映像・デザインなどクリエイティブ産業に革新を起こすベンチャーの発掘・育成を支援する「クリエイティブ ベンチャーシティ 金沢推進事業 (CVCK)」を展開。セミナーやワークショップ等に、開発者・クリエイターなど毎回多数の市民の方が参加されています。

また、ITの力で市民により地域問題の解決に取り組むCode for Kanazawaの活動も有名で、開発成果の一つであるゴミ収集のサポート・アプリ「5374(ゴミナシ).jp」は日本各地に広がりつつあるなど、金沢はイノベーションに取り組む気風に溢れています。

この歴史深い金沢の美しい町家が立ち並ぶ主計町(かずえまち)の近くに、ベンチャーのインキュベーションに取り組む一般社団法人GEUDAのオフィスがあります。今年4月にオープンしたオフィスは1928年に建てられた古い洋館をリノベーションしたもので、歴史の深みを感じさせる空間は今、日々開発に取り組む若き起業家達の熱気に溢れています。

今年のA3 2014では、注目を集めるNFCやBLEなどを活用した新たなアプリの開発・応募を支援すべく、Xperia・SmartBand・SmartWatch2などのデバイスとNFC・BLEを駆使するハッカソン「Xperia Wearable Hackathon」をここ、アイデアを刺激する金沢のGEUDAで8月2日・3日の2日間の日程で開催予定です (参加申込はこちらから)。このハッカソンで開発されたアプリは、A3 2014の応募に直結される構成となっています。

NFCの未来を切り開く新しいアイデアを、この夏ぜひ金沢で形にしてみてください。

2014年7月10日木曜日

NFCとMobile - かざして つながる -






定期券や電子マネーの情報を、かざすだけで伝えられる。
駅の改札やコンビニエンスストアなどで今では当たり前となった光景ですが、ここで使われている無線通信技術、ご存知でしょうか?


遠く離れた相手と通信する衛星通信や携帯電話と異なり、僅か数センチの近距離を無線で結ぶ技術は近距離無線通信技術と呼ばれます。現在、 13.56MHzの周波数帯を用いた方式は、Near Field Communication いわゆるNFCとして国際標準規格にまとめられ、私たちの生活にも広く利用されています。

例えば、ICカード定期券やEdy等の電子マネーのカードは勿論、ICカード化された運転免許証や住民基本台帳カードにもNFCが入っている他[1]、小さなタグやシールにも組込まれ、ID情報が入ったリストバンドや貨物の荷札等に使用されるなど、あらゆる分野に普及しつつあります。

ところで、「リーダーにかざして情報を読み取る」と記しましたが、このNFCを読み取るリーダーは、お店のレジや改札機だけでなく、実は日本中の多くの方が毎日持ち歩いています。そう、皆さんがお持ちのスマートフォンはNFCリーダーでもあるのです。NFC対応のスマートフォンはこれまで累計で70機種普及台数は1392万台に達しています[2]

日本では世界に先駆けてFeliCaが携帯電話に搭載した他、Androidスマートフォンへの搭載も進み、モバイル・デバイスの世界ではNFC対応の最先端を行く国といっても過言ではありません。

いつでも・どこでもインターネットに接続され、様々なアプリケーションが利用可能なスマートフォンとNFCの組合せがもたらす可能性は無限大です。これまでは交通機関のチケットや電子マネー等での利用が中心でしたが、ネットワークと様々なリアルな"もの"、そしてサービスの三つがスマートにダイナミックに結ばれ全ての情報が自在に行き交うその世界から、様々な革新が生み出されるものと期待されています。





NFCの標準化と普及推進にあたるNFC Forum Japan Task Forceでは、今年、NFCのさらなる成長とこうしたイノベーションの実現を目指し、ITproが主催するAndroidアプリケーション・コンテスト「Android Application Award 2014」(A3)の協賛を通じてアプリケーション開発者を応援し、NFCが切り開く未来を探ってゆきます。

NFC Forum Japan Task Force 2014 マーケティング実行委員会が運営するこのブログでは、A3の活動の模様をはじめ、NFCの最新情報や未来の可能性を定期的に紹介してゆく予定です。ぜひご期待ください!


[1] 国内運転免許証は2007年からICカードへ切替が始まりました。このカードにはNFC-B(通称Type-B)が使用され、リーダーにかざすことで情報を読み取る事が出来ます。 住民基本台帳カードも同様です。また、ICカード定期券やEdy等の電子マネーのカードに広く使用されているFeliCaは、NFCの共通規格に各種セキュリティ処理を加えた形で構成されています。詳細はこちらをご参照ください。