2015年1月15日木曜日

ICカードが変える決済のスタイル



昨年4月に消費税が8%になったことを実感したのは、とあるカフェでコーヒーを頼んだ時でした。それまで消費税込みで300円であったコーヒーが302円。100円玉3枚で買えたものがあと2円必要となり、1円玉の持ち合わせがないからと千円札で払うと、お釣りの698円でポケットが一気に膨らむ羽目に。この小銭、とりわけ1円玉や5円玉といった少額コインのやり取りの変化が、消費税率変化の象徴と言えるかもしれません。

1989年に日本に初めて消費税3%が導入された際は、一般生活の隅々まで数円単位の精算が一気に増加したことで市中の1円玉需要が急増、その年の1円玉の製造枚数は23億6697万枚、翌年1990年には約27億枚にのぼりました。様々な物の値段が1円単位となった訳ですが、自動販売機や鉄道・バスの料金は、既存の機械の大幅な改造が必要となることから、長い間10円単位のままとなっていました。

今回8%への消費税率変更で生じた大きな変化は、この鉄道料金にも1円単位の料金が導入された点です。新宿駅での1日の乗降客は650万人に達する巨大な鉄道システムを抱える日本の場合、鉄道料金が1円単位とると、普通に考えれば膨大な1円玉・5円玉需要が生じるのではと思われますが、実際には市中の少額コインが逼迫するということもなく、何事もなかったかの様にスムーズに導入されたことは、ある意味驚きです。
こうした大規模な1円単位の少額決済を可能とした背景には、交通系ICカードの普及があげられます。

2001年JR東日本により首都圏に導入されたSuicaを皮切りに、この14年余りで全国的に普及し、その発行枚数は2013年3月末時点で約8700万枚に達しています。この交通系ICカードのもう一つの特徴は、電子マネーの機能を併せ持っていること。当初は駅構内の売店に始まり、今では自動販売機から街中のコンビニでも使えるため、ちょっとした少額の買い物では、この交通系ICカードによる決済が大幅に増加し、2014年7月一ヶ月間での交通系電子マネーの利用件数は、全国で1億1,841万件と過去最高を記録しています。

日本の交通系ICカードには、その厳しい要求仕様(200ms以内にトランザクション完了等)を満たすべくNFCの一つであるFeliCaが採用され、駅の改札機やバスの乗降口で「かざす」という行為が、今では日常の風景となりました。そして同時に、様々な場所での買い物シーンでも、このFeliCaカードをかざして決済するという使われ方が着実に浸透しつつあります。

NFCは非常に短い距離のものどうしを結ぶ無線通信技術の一つですが、この技術が私達の生活シーンを変え、そして一国の貨幣流通やマクロ経済にも影響を及ぼす様になったことはとても興味深いことです。

NFCは、決済という領域においては乗車券や定期券、店頭での少額決済という、リアルな場面(In store)での利用が中心でしたが、昨年米国で始まったApple Payはそうした店頭決済だけでなく、その高いセキュリティ機能を活かしたより安全なネット決済をも実現したことで注目が集まっています。今後、スマートフォン+NFCという組み合わせのソリューションは、リアルとネット、その双方の決済の中心となる可能性が高まっています。

日々刻々と進化する技術に合わせ、様々な決済、そして日々の私達の暮らしも大きく変わろうとしています。何気なく手にし、普段の生活の中で使っているスマートフォンや交通系ICカード。その中で使われているNFCは、今後の大きな変化の鍵となりそうです。