2014年8月17日日曜日

「助けて欲しいこと」を機械に伝える


Photo by Frederick Dennstedt, Jan 28, 2008. (CC)


つい数年前までは、誰もが携帯電話のボタンを押していたのが、今ではスマートフォンの画面とにらめっこ。タッチスクリーンを指で触る姿が街の風景となってきました。ATMは勿論、駅の券売機、各種自動販売機からレストランのメニューまで、至る所でタッチスクリーンのインターフェースが浸透しつつあります。

こうした機械の進化は、機能性が向上して便利になったかの様に見えるのですが、同時に思わぬ問題も生み出しています。たとえば表示される文字の大きさは固定されている為、老眼や弱視の方にとっては見えづらい。大きくしたくても、その調節ボタンの表示がどこにあるのか分からない。全く目が見えない方には音声によるガイダンスが必要なのですが、そのリクエストをどうやって伝えれば良いかが分かりません。

障害を持たれた方ばかりでなく、海外から来日した人で英語も日本語も良く分からない方の場合、例えば食券販売機の前でさっぱり読めない操作画面を前に、どうすれば良いのか分からず立ち往生されるケースもしばしば。日本に住む私たちも非英語圏に旅行した際、駅やバスの切符販売機などで同じ様な経験をされたことがあるのではないでしょうか。



その昔、機械ではなく人が応対にあたっていた時代であれば、筆談や身振り手振りなど、様々な方法でコミュニケーションをとり、自分のリクエストを相手に理解してもらうことが出来ました。しかし、現代のこうした機械の多くには、こうした「困っていること」「助けて欲しいこと」を受け取るインターフェースが備わっていません。IoTの言葉通り、今後ますます自動化・機械化が進む中で、これは大きな問題です。

こうした操作する人の「困っていること」「助けて欲しいこと」を機械に簡単に伝えられれば、機械は相手の条件に応じて最適なインターフェースに切り替えることが出来ます。しかし、機械毎、ATMや自動販売機毎にこの伝え方がバラバラであれば、操作する人は一々個々のやり方を理解しておく必要があり、結局問題の解決にはなりません。世界中の全ての機械で、同じ方法により簡単に使えることが必要です。


「支援リクエスト」と呼ばれるこの課題をどの様に解決するか。
実は日本では、政府と企業が協力してICカードを用いた標準方式を開発し、これを国際標準化委員会へ提案、2011年に国際規格ISO/IEC12905としてとして制定することに成功しています。ICカードにより、誰でも簡単に機械へリクエストを伝えられるとても便利な規格です。

この方式は、予めICカードに必要な支援リクエスト情報を記録しておき、機械がそのカードを読み取ることで、個別操作なしで支援内容を機械に伝え、機械は最適なインターフェースに切り替える等の必要な支援機能の提供を可能にするものです。
(支援リクエストと国際規格の概要の説明書はこちらからダウンロード出来ます)

例えば、英語圏で弱視の方がその情報をICカードに登録しておくと、券売機でそのICカードを機械に読み取ってもらうだけで、券売機の画面を英語で弱視の方用の表示に切り替える...という具合です。

このISO/IEC12905は、従来のクレジットカード(ID-1)の様なカード型は勿論、携帯電話のSIM/UIMカードや、NFCでも適用可能となっているところが大きなポイントです。つまり、NFC対応スマートフォンであれば、自分が持っているスマートフォンを「支援リクエスト・カード」として使うことが出来ます。これに様々なアプリを組み合わせれば、例えば難聴気味の方にはスマートフォンのアプリを介し、機械にスマートフォンをかざすだけで、操作者のイヤホンに必要な音声ガイダンスを流すといったことも可能です。



これからますます機械化・IT化が進む社会では、人と機械がよりスムーズで柔軟にコミュニケーションをとれることが重要です。この問題解決のために、普及するスマートフォンとNFCを活用したISO/IEC12905の導入と応用が強く期待されています。


来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、世界中から沢山の方が日本を訪れます。このISO/IEC12905とNFC、そしてスマートフォンの組み合わせにより、誰もがどこでも快適に旅行が出来れば、それこそ日本が創る最高の「おもてなし」になるのではないでしょうか。