2014年10月19日日曜日

加速するEMV化とNFC化




クレジットカードといえば、支払いの際、店頭の読取り機にさっと通して磁気テープの情報を読み取り(スワイプ)、プリントアウトされた伝票にサインするという形が主流でしたが、最近は、読取り機に挿入し「暗証番号を入力して下さい」と言われることが増えたのではないでしょうか。

これは、従来磁気テープに各種情報を格納していたクレジットカードが、暗号処理を施したICチップにより不正利用や偽造を防ぐICカードに切り替わりつつあるためです。1990年代後半に開発が進められた決済カード用ICカードの規格EMV(Europay, MasterCard, VISA protocol)は、2001年に欧州や日本で導入が始まり、UKやフランスのクレジットカードはほぼ100%EMV化されました。日本でもかなり浸透しつつありますが、店頭にある読み取り・決済端末、いわゆるPOSの対応が追いつかない為、まだスワイプのみという店も多い様です。

世界最大のクレジットカード大国である米国の場合、いち早くEMV化を終えた欧州とは対照的に、実はこれまでその導入が大幅に遅れていました。この背景の一つには、上に挙げた店頭でのPOS対応問題があります。POSをEMV対応とする為には少なからず新たな設備投資(POSの切替)が必要となるのですが、収益増に結びつきにくいことから、銀行系を中心とするカード発行会社(イシュアー)や加盟店ではどうしてもEMV化に消極的となり、導入が遅々として進まなかった訳です。

しかしEMV化の遅れは不正利用の増大を招き、世界のクレジットカード詐欺・不正利用による被害の実に47%が米国で発生し、その被害額は年間で35.6億ドル(約3600億円)にも達しています。この事態を受けて、ついに全米でライアビリティー・シフト(債務責任の移行)が施行されることとなり(※)、EMV化していない店舗で不正利用が発生した場合、その被害の補償責任はカード会社ではなく加盟店側に課せられることとなりました。この期限が2015年10月1日に迫ってきていることから、今全米では、急速にEMV対応のPOSへの切替が進みつつあります。

ここで注目すべき点は、MasterCardやVISAといったメジャー・クレジットカードが積極的に、EMV対応の新POSとして接触型ICカードと非接触型の「NFC」の双方に対応する端末の配備を進めている点です。

これまでEMV対応と同様に、NFC対応のPOS配備もなかなか普及せず、NFCを用いたモバイル決済が利用出来る店が限られているという問題があったのですが、POSのEMV化と同時に、NFC対応も急速に進んでいます。これまでNFC利用のモバイル決済はPOS側での対応がボトルネックとなっていましたが、事態は逆転し、ユーザーが持つ携帯端末、いわゆるスマートフォン側でのNFC決済対応が鍵となりつつある訳です。

この背景から考えると、従来一部のAndroidスマートフォンだけで利用可能であったNFC決済が、このタイミングでiPhoneでも理由可能になったことは、非常に大きい意味合いを持っています。

米国ではいよいよ明日月曜から、iPhone 6+NFCによる「Apple Pay」が始まります。対応店舗がどれだけ増えるのか?と疑問視する声もありますが、クレジットカード業界で現在加速しているEMV化の波にのり、MFC対応POSは一気に進んでいるため、このタイミングでのApple Pay導入は、まさに時宜を得たものといえるでしょう。明日10月20日は、モバイル決済の大衆化を決定的なものとする、まさに歴史的な一日となるかもしれません。


(※) ライアビリティー・シフトは、ガソリンスタンドに関しては適用外となっています。