2014年10月12日日曜日

Suicaの凄さ




関東ではすっかりお馴染みのSuica。私鉄や地下鉄で使われるPasmoをはじめ、いまや全国のバス・鉄道に使われている非接触ICカードは、このSuicaから始まりました。これ一枚あれば、駅で切符を買わなくても、乗継ぎの際に精算をしなくても、昔の磁気カードの様に定期券ホルダーから取り出さなくても、スイスイと電車やバスに乗ることが出来るとても便利なカードです。

毎日何気なく使っているSuicaですが、このカードが実現した性能はある意味驚くべきものです。
まず、日本、とくに首都圏の一日の鉄道乗降客数は世界の中でもダントツの一位。最も多い新宿駅では、JR東日本の乗車数だけで平均75万人/日、私鉄各社を合わせた総乗降客数は1日で360万人にものぼります。このため、定期券や自動改札機の使用環境と、必要とされる性能条件も、世界一厳しいものです。

最も乗降客が集中する朝の通勤ラッシュ時間帯(新宿駅では朝の7時50分から8時50分までの1時間がピーク)でみると、自動改札機を通過する人の数は1分間に60人。つまり、自動改札機は1人1秒以下で改札処理を確実に終えなくてはなりません。従来の磁気カード型の定期や乗車券の場合では、差し込み口に券を挿入し、データを読み取り判定し、機械出口まで運ばれる時間は0.7秒で、この要求条件をクリアしていました。

ところが非接触ICカードの場合「かざす」だけで良いので、人はカードを持ったまま、さっと改札機を通過してしまいます。そのため、カードの検知・認証・読み出し・判定・書き込み・確認といった全ての処理を極めて短時間で完了させなくてはなりません。また同時に、ラッシュ時でも改札で人の流れが止まらない様に、出来る限り低いエラー率も要求されます。これらの条件を満たす為に必要とされた性能は、通信時間0.2秒以内、エラー率0.001% (10万分の1)という非常に厳しいものでした。

この仕様を満たし、駅で誰でも確実に使えるICカードを実現するために、JRの研究開発チームは様々な試作・試験を重ねます(※)。ICカードと読み取り装置の組み合わせだけでなく、同時にSuica発券から精算までを管理する複雑なシステム開発も必要とされ、実際の利用時にトラブルが発生しないために行った試験パターンは22万8千件、運賃検証は実に550万件という膨大なテストが行われました。サービス開始直前にもトラブルが発生したものの、もう一度全ての検証作業を実行し、最後のテストが完了したのは前日の夜8時だったと言われています。

こうして16年にも及ぶ開発を経て生まれたのが、このSuicaです。
2001年11月18日に首都圏424駅で使用が開始され、現在発行枚数は4500万枚以上、全国の様々な交通系ICカードとして利用されています。今やすっかり生活に溶け込んだSuicaですが、改札機やお店でこのカードを"かざす"時、生まれるまでの歴史とその技術をちょっと思い出してみてください。


(※) 皆さんもご存知のとおり、SuicaにはSONYが開発・製造するFeliCaが使用されています。この無線通信部分に用いられている規格はISO/IEC18092、「NFC IP-1」と呼ばれる国際標準規格です。従い、無線部については「NFC」に準拠し共通化されたものといえます。FeliCaの特徴はこのNFCをベースに、ICカードの物理特性、伝送プロトコル、ファイル構造、コマンド等について、JIS X 6319-4と呼ばれる高速処理用ICカード規格を適用し、この上にさらに独自のセキュリティ・ロジックを組込んだ点です。