2014年11月9日日曜日

TapとTouch




NFCに代表される非接触ICカードの使い方を説明する際、日本では「タッチ & ゴー」「しっかりとタッチして下さい」など「タッチ」という表現が良く使われます。一方、海外のNFCの場合は「Tap to Pay」とか「Tap & Go」という様に「タップ」という言葉を使うのが一般的です。

ポンと叩く様な動作が「Tap」、触る動作が「Touch」。似ている様で少し違います。特にスマートフォンやタブレットで標準になったタッチスクリーンの場合、インターフェースの仕様上、TapとTouchは明確に使い分けられてるため、TapすべきところをずっとTouchし続けると、ときに全く違う反応(動作)が返ってきて最初はびっくりすることも。

一見些細なことの様にも思えますが、IT機器の操作に不慣れな人にとって、これは大きな問題です。パソコン等のキーボードを使った経験があれば、「画面をタッチして下さい」と言われた時、ずっとタッチするのではなく、キー入力の所謂Typeと同じ様に打ったら離す要領で、触ったら離せば良いということが、恐らくすぐに分かります。

ところがそうした経験が殆ど無い方に、「画面右上の赤いアイコンを “タッチ” して下さい」と指示すると、ずっと指でタッチし続ける人が多いのです。

日本ではタッチスクリーンと呼ばれていますが、実際に要求されてる操作の殆どはTouchではなくTap。ですが、Touchに比べると日本ではあまり馴染みのない言葉のせいか、「タップ」とは言わずいずれも「タッチ」と表現するため、こうした食い違いが発生しがちです。誤操作を防ぐには、タッチという言葉の代わりに「ポンと一回、叩いて下さい」という様に、動詞ではなく文章で正確に説明する必要があります。

NFCの場合、かざす・タップする・ずっとタッチし続ける、どの方法でも通信可能ですが、状況によってはTap & Goでなければ困るケースもあります。例えば駅の改札機。かざし方が不十分だったりタップが早過ぎるとエラーになるため「しっかりタッチ」と注意書きされているのですが、逆にこれが徒になり、長めにぎゅっとタッチし続ける方もいます。そうすると後ろの人がタップ出来ず、列の流れが止まってしまうこともしばしば。エラーにならない様にしっかりタッチさせつつも、不必要に長くタッチさせない工夫が必要です。

ボタンを押す、ハンドルを回す、スイッチを倒すという動作と各動詞は一対一の関係にあり、これら動詞で指示した時、ほぼ誰でも同じ動作をします。これら動作には、いずれも動作に対してボタンが凹む・沈む深さ、ハンドルが回った角度、スイッチ倒れて向きが変わるなどの物理的な反応、いわゆるフィードバックが得られるのが特徴です。このフィードバックがあるおかげで、人により押し具合や倒し具合を間違えてトラブルになるということは殆どありません。

これに対しタッチやタップの場合、その動作に対する物理的なフィードバックはほとんど無い為、どの程度タッチ・タップをすれば良いのか、今のタッチ・タップでOKだったのか直感的には分からない課題を抱えています。そのため、駅の改札機ではプログラミングされた音や光により完了・エラーのフィードバックを返しているのですが、これはあくまで動作後の結果通知。動作前・動作中にどの程度のタッチ・タップであれば良いかを直感的に伝え、動作中に調節出来る様なインターフェースとはなっていません。大丈夫と思って軽くタップして期せずしてエラーになった時、何が(タップの仕方が)どの程度悪かったのか全く判らず、戸惑った方も多いのではないでしょうか。


NFCは今後ますます、スマートフォンや家電、ウェアラブルなどの各種デバイスに搭載され、決済や認証・データ転送など、様々なシーンで「タップ」操作が必要になるでしょう。そうした操作を簡単に・気持ち良く・確実に出来る、最適なユーザー体験(UX)を実現するためには、上に挙げた認知の違いや適切なフィードバックについて、十分に考慮したデザインが求められています。これはNFCを普及させてゆく上で、とても重要な課題です。