2014年9月29日月曜日

NFCと蛇口のデザイン




えっ?、というタイトルですが、今回は使いやすいデザインとは何かについてのお話です。

蛇口、いわゆる水道の水栓ですが、誰でも一日数回は必ず目にして、誰もが使う機械の一つです。自宅は勿論、職場や学校、様々な施設で目にして実際に使っている訳ですが、この機械にはユニークな点が二つあります。

一つ目は、「使用方法について、ほとんど説明はない」こと。ホテルの洗面台などで、凝ったデザインの蛇口に注意書きが添えられているケースもありますが、大半の場合、使い方については何も書かれていません。意味不明な矢印?と思われる三角形や、赤と青のドットがマーキングされていても、それがどういう意味なのか説明されていることは稀です。

二つ目は、「機能は極めてシンプル、なのに蛇口の種類と使用方法は多岐にわたる」こと。蛇口の機能は、水を流す・量を調整する・止めるという基本機能に、オプションとして温水・冷水量の調整がある程度の実にシンプルなもの。ところが、それを実現した機械には単にハンドルを回すものから、レバー式(それも倒したり引いたり様々)、ボタン式、センサーによる自動蛇口など、実に多彩な形状と操作方法のバリエーションがあります。

この二つの特徴が組み合わさると、果たしてどうなるか。
普段とは違う蛇口を前に、使い方が分からずに当てずっぽうで操作して、レバーの力の加減を間違えて思いっ切り水が噴き出す、どこでセンサーが反応するのかわからず、いつまでも水が出て来なくて往生する、どちらに回せば温水と冷水になるのか分からず、間違った方向に回して熱湯にびっくりする...などなど、ただ水を出したいだけなのに、あれこれ試行錯誤したり、トラブルに遭ったりすることもしばしば。
皆さんもこんなハプニング、遭遇したことがあるのではないでしょうか?

この問題はプロダクト・デザインを考える上でとても大切なポイントです。日用品として普段の生活で使われる機械は、美しさも必要ですが、何よりも大切なのは使いやすさこと。その機械の使用方法、つまりインターフェースは、出来るだけ直感的で分かりやすく、自然であることが重要です。一番難しい点は、この重要性は分かっていも、実際にそれをデザインすること、つまり簡単に使える物をデザインすることは、上に取り上げた蛇口の例の様に、一見単純な機能の機械であっても簡単ではないということです。

この問題を解決する為には、機械がもつAffordance (アフォーダンス: その物が持つ機能や行為といった可能性) を正しく・分かりやすく伝える、Signifier (シグニファイア: アフォーダンスを知覚させるサイン) を、利用者の視点で十分考慮する必要があります。

しかし実際の私たちの身の回りには「使いづらい機械」が溢れているのが現状です。その多くは、どう使えばよいのか頭をひねらざるを得ない蛇口の様に、作り手だけが分かるAffordanceとSignifierを基にデザインされたものが少なくありません。


NFCは、かざすだけで簡単に、決済やチケット提示、デバイス間のペアリングなど、色々な情報のやり取りや機能を使うことが出来る便利な技術です。しかし、これを製品・ソリューションとしてデザインした場合、「こうした機能が使える」「“かざす”・ “タッチする”ことで使える」といったAffordanceを示す効果的なSignifierについては、いまだ模索中の段階と言えるでしょう。

全てのものがネットと接続出来るInternet of Things、いわゆる「IoT」の世界で、様々なものとを結び情報伝達を可能にするNFCは重要な役割を果たすと期待されています。その期待を現実のものにするためには、便利なものとして誰もが簡単に利用出来る様、利用者の視点で考えた、Affordanceを踏まえた適切なSignifierのデザインが求められています。



※AffordanceとSignifierについては、以下のD.A.ノーマンの著書に
 詳しく解説されています。興味のある方はぜひお読み下さい。

『複雑さと共に暮らす』(新曜社刊, 2011年)
『誰のためのデザイン』 (新曜社刊, 1990年 初版発行)